
背景のおさらい(簡単に)
まず、前提を手短に押さえておくと、本件では台湾の電子部品メーカー ヤゲオ(Yageo) が芝浦電子に対して敵対的なTOBを仕掛けており、これに対抗して日本側企業 ミネベアミツミ(Minebea Mitsumi) が“白騎士”(friendly bidder)的立場で追随・対抗しているという構図です。
芝浦電子はサーミスタ(熱敏抵抗器)など温度センシング分野を手がけており、その技術・製品には安全保障上の関心も及ぶ可能性があるため、外為法(日本の外為・外国貿易法)に基づく審査が重要な鍵となっています。
2025年5月以降、ヤゲオ・ミネベア双方のTOB申請・価格調整・期間延長の駆け引きが続いており、6~7月期もその過程が激しく動いていました。
以下、6〜7月期を中心としたタイムラインと考察をまとめます。
2025年6月〜7月:主な展開タイムライン
6月前半:調整と様子見の動き
- 2025年6月2日、国巨(=ヤゲオ側/被動元件メーカー、台湾)は、日本の外為法による承認申請を改めて提出したとの報道が出てきました。
- 一方で、ミネベア側は、TOBの初期期限を延長する動きを見せます。6月16日、ミネベアはTOBの期限を 6月19日 → 7月10日 に延長すると発表。
- この延長理由として、金融商品取引法上、TOB中に有価証券報告書を提出し訂正が必要になった際には、残存期間の調整規定が働くため、一定の余裕を確保しておく必要があるという説明もされています。
- この時点では、ミネベア側は TOB価格(1株あたり5,500円)を変更しない と表明。国巨/ヤゲオ側の外為法審査動向を見極めたいとの意図が示されています。
考察ポイント(6月)
この時期は、ミネベアが“駆け引きフェーズ”に入っており、価格の引き上げよりも、ヤゲオ側の外為法承認リスクを注視するスタンスをとっていたと見られます。 とはいえ、TOB延長は相手側にも追加の猶予を与えることになり、リスクもあります。
7月:激化と期限延長の応酬
7月に入ると、TOB戦線の動きは一段と激しくなります。
- 7月1日、ヤゲオはTOB期間を 7月9日 → 7月15日 に延長すると発表。理由は、外為法審査に追加時間を要するとの通知を受けたため、との説明。
- 7月15日には、ヤゲオはさらに TOB期間を8月1日まで延長 すると表明。審査未完了を理由としています。
- また、ミネベア側も7月16日、TOBの期限を 7月16日 → 7月28日 に延長するとアナウンス。なお、価格は5,500円のまま据え置きした。
- ミネベア社長・会長クラスからは、国巨(ヤゲオ側)による外為法審査の遅延理由について明確な説明がないと批判する発言が出ています。
- 7月中には、ヤゲオが改めてTOB延長を通知したり、ミネベアが動きを見せたりする報道も相次ぎました。
考察ポイント(7月)
7月は、ヤゲオが外為法審査を最大限に使って時間を稼ぐ動きを鮮明にしました。「審査中だから期限を延ばす」戦略を繰り返すことで、ミネベアにプレッシャーをかけつつ、相対的に自らの余力を温存する構えです。
ミネベアは価格見直しには踏み込めない状態ながら、延長対応で対抗。「価格据え置きながら、時間で勝負」という戦略とも見えます。
また、7月中旬以降、芝浦電子株価がミネベアの提示価格(5,500円)を上回る水準にあるとの報道もあり、株主側の判断も揺らぎやすい展開ともなっていました。
総括と今後予想(8月以降をにらんで)
2025年6〜7月期を振り返ると、TOB戦争は「時間戦略」と「価格戦略」の綱引き段階に突入していたと言えます。
- ヤゲオ側は外為法審査を盾にして期限延長を重ね、ミネベア側を牽制
- ミネベア側は価格を据え置きつつ、延長で応戦
- 双方ともに、株主やマーケットの反応を伺いながら慎重に動いていた
今後(8月以降)に注目すべきポイントとしては:
- 価格のさらなる上乗せ
ミネベアが5,500円据え置きという姿勢がどこまで維持できるか。ヤゲオ/国巨側が価格再上積みに出る可能性。 - 外為法審査の可否
最終的にヤゲオ(外国企業)が外為法クリアランスを取得できるかどうかが勝負の鍵。審査否決や条件付き承認といったリスクもある。 - 株主意向の揺らぎ
芝浦電子の株主がどちらのTOBに応募するか、株価動向を見ながら判断するため、短期的な株価上下が激しくなる可能性。 - 最終的なTOB成立 or 不成立
応募株数が予定水準に達するかどうか。特にミネベア側は、最終的に“不成立”となる可能性もありうる。
芝浦電子TOBについて

